座ってできる!脳を活性化しながら体を動かす簡単フィットネス
はじめに:脳と体を同時に動かすことの重要性
年齢を重ねるとともに、「最近、ちょっとした物忘れが増えたな」「体を動かすのが億劫になったな」と感じることがあるかもしれません。脳の働きや体の機能は、意識的に使うことで維持・向上を目指すことができます。
特に、脳と体を「同時に」使う運動は、脳の様々な領域を活性化させ、認知機能(考える力、判断する力、記憶する力など)の維持や向上に役立つと考えられています。また、このような運動は、日常生活でのとっさの判断や、複数のことを同時に行う場面で役立ち、結果として転倒予防にも繋がる可能性があります。
このページでは、椅子に座ったままで安全に行える、脳を活性化しながら体を動かす簡単フィットネスをご紹介します。リハビリテーションの考え方に基づいた、体に無理なく取り組める運動です。ご自身のペースで、楽しく実践してみてください。
なぜ脳と体を一緒に動かすことが大切なのでしょうか?
私たちの脳と体は、神経を通じて密接に連携しています。体を動かすとき、脳は筋肉に指令を出し、同時に体からの感覚情報を受け取って、動きを調整しています。この「脳からの指令」と「体からのフィードバック」のやり取りがスムーズに行われることが、滑らかで効率的な動きには不可欠です。
脳と体を同時に使う運動、いわゆる「二重課題(デュアルタスク)」と呼ばれる考え方を取り入れた運動では、脳が一度に複数の処理を行うため、注意を分割したり、異なる情報を統合したりする能力が鍛えられると考えられています。これは、例えば「歩きながら会話をする」「料理をしながら別のことを考える」といった、日常生活でよく行う動作にも深く関わっています。
座った状態で行うことで、転倒のリスクを減らしながら、脳と体の連携を意識的に高める練習ができます。これにより、身体機能だけでなく、認知機能の維持・向上、さらには日常生活の質の向上を目指すことができるのです。
実践!座ってできる脳活性化フィットネス
これからご紹介する運動は、特別な道具を使わずに、椅子に座ったままで行えます。安全に十分配慮しながら実施しましょう。
運動を行う前の準備
- 椅子: 安定していて、滑りにくい場所に置いた椅子を使用してください。背もたれがあるものがより安全です。深く腰掛け、足の裏がしっかりと床につくようにしましょう。
- 服装: 動きやすく、体を締め付けない服装で行いましょう。
- 水分: 運動前や運動中に、喉が渇く前に少しずつ水分補給を行いましょう。
- 体調: 体調がすぐれない時や、痛みがある時は無理せず中止してください。
運動1:【手と足のバラバラ協調運動】
この運動は、脳の異なる部分を同時に使い、手と足の協調性を高めることを目的とします。
目的・効果: * 脳の左右半球や、手と足を司る異なる領域を同時に活性化します。 * 体の協調性(バラバラの動きを同時に行う能力)を高めます。 * 下肢の筋力維持にも繋がります。 * 注意分割機能(複数の対象に注意を向ける能力)を鍛える効果が期待できます。
やり方:
- 椅子に深く腰掛け、背筋を軽く伸ばします。足の裏は床にしっかりとつけます。
- 右手で右側の太ももを軽くポンポンと叩き続けます。
- 同時に、左足のかかとを床につけたまま、つま先をゆっくりと上げ下ろしします。
- 最初はゆっくりとしたペースで、手と足がバラバラの動きをしていることを意識しながら行います。
- この動きを8〜10回程度繰り返します。
- 終わったら、一度リラックスします。
- 次に、左手で左側の太ももをポンポンと叩き、同時に右足のつま先を上げ下ろしします。同様に8〜10回程度繰り返します。
- 慣れてきたら、右手で左側の太ももを叩きながら、左足でつま先上げ下ろし、というように、対角線上の手足で行うとさらに難易度が上がります。
難易度調整: * 最初は片方の手足だけを動かす練習から始めましょう。 * 動きのスピードをゆっくりにしたり、回数を減らしたりして調整してください。
運動2:【計算しながら手拍子&足踏み】
簡単な計算などの「頭を使う課題」と、「体を動かす課題」を同時に行うことで、脳の処理能力を高めることを目指します。
目的・効果: * ワーキングメモリ(一時的に情報を保持し処理する能力)や注意分割機能を鍛えます。 * 脳の異なる領域(計算を司る部分と運動を司る部分)を同時に活性化します。 * 下肢の筋力維持やリズム感の向上にも繋がります。
やり方:
- 椅子に深く腰掛け、背筋を軽く伸ばします。
- 足の裏を交互に少し持ち上げるか、かかとを交互に上げ下ろしして、軽い足踏みを始めます。
- 足踏みを続けながら、同時に簡単な計算を行います。例えば、「100から7を引いていく」などの引き算や、「2ずつ足していく」などの足し算が良いでしょう。
- 計算をしながら、同時に手拍子も行います。足踏みのリズムに合わせて手拍子をしたり、計算の答えが出た時に手拍子をするなど、ルールを自分で決めてみましょう。
- 「足踏み」と「計算」と「手拍子」を同時に、1〜2分程度続けます。
- 慣れてきたら、計算の難易度を上げたり、足踏みの種類を変えたり(例:もも上げにする)してみましょう。
難易度調整: * 最初は「足踏みしながら数を数える」など、計算を簡単なものから始めましょう。 * 手拍子を省いて、「足踏みしながら計算」だけでも十分効果があります。 * 計算に詰まっても大丈夫です。動きを止めずに続けることを意識しましょう。
運動3:【指示反応ゲーム】
視覚や聴覚からの情報に素早く反応して体を動かす運動は、脳の処理速度や判断力を鍛えるのに役立ちます。誰かに指示を出してもらうか、自分でルールを決めて行います。
目的・効果: * 脳の処理速度や反応速度を高めます。 * 指示を聞いて理解し、適切な行動を選択する判断力を養います。 * 注意の切り替えや、不適切な行動を抑制する能力にも関わります。 * 脳の実行機能(目標を設定し、計画を立て、実行する能力)の活性化に繋がります。
やり方:
- 椅子に深く腰掛け、指示を聞き取りやすい姿勢をとります。
- 始める前に簡単なルールを決めます。例えば、
- 「赤」と言われたら右手を上げる
- 「青」と言われたら左手を上げる
- 「黄色」と言われたら両手を前に出す
- 「1」と言われたら右足をつま先上げ
- 「2」と言われたら左足をつま先上げ
- 決めたルールに従って、誰かに指示を出してもらいます。指示は単語だけでも良いですし、「赤、青、黄色」のように複数連続で出してもらうのも良いでしょう。
- 指示を聞いたら、素早く対応する体の動きを行います。
- 指示を出す側は、最初はゆっくりとしたペースで、慣れてきたら少しずつスピードを上げてみましょう。
- 一人で行う場合は、紙に単語や数字を書いてめくったり、あらかじめ指示のリストを作っておいたりして行います。
難易度調整: * ルールを最初は2種類だけにするなど、シンプルにしましょう。 * 指示のスピードをゆっくりに設定しましょう。 * 間違えても気にせず、楽しむことを一番に考えましょう。
運動を行う上での大切な注意点
- 無理は禁物: どの運動も、痛みを感じたり、疲労が強い場合はすぐに中止してください。無理をすると怪我の原因になります。
- 呼吸を止めない: 運動中は自然な呼吸を心がけましょう。息を止めると血圧が上がる可能性があります。
- 安全な環境で: 椅子が安定しているか、周囲にぶつかるものがないか確認してから行いましょう。
- 体調に合わせて: その日の体調や、既往歴(過去にかかった病気)などを考慮し、できる範囲で行ってください。かかりつけ医やリハビリ専門職に相談しながら行うとより安心です。
- 中断の目安: めまい、立ちくらみ、息切れ、胸の痛み、動悸、冷や汗などの症状が出た場合は、すぐに運動を中止し、必要に応じて医療機関に相談してください。
運動を続けるために
脳と体を同時に使う運動は、継続することでより効果が期待できます。毎日決まった時間に行う、家族や友人と一緒に行う、好きな音楽をかけながら行うなど、楽しく続けられる工夫を見つけてみてください。すぐに効果を感じられなくても、焦らず、ご自身のペースで続けることが大切です。
ご紹介した運動が、皆様の脳と体の健康維持の一助となれば幸いです。座ってできる運動を通して、いつまでもイキイキとした毎日を送りましょう。