座ってできる!いつまでも美味しく食べるための口と喉の簡単運動
いつまでも美味しく食べるために大切な「口と喉」の機能
年齢を重ねるとともに、「食事がむせやすくなった」「硬いものが食べにくくなった」「以前より声が出しにくくなった」といった変化を感じることがあるかもしれません。これらは、食べ物を噛み砕き、飲み込み、そして会話をするために重要な、口や喉周辺の筋肉や機能が少しずつ低下しているサインである可能性があります。
口や喉の機能、特に食べ物を安全に飲み込む機能は「嚥下(えんげ)」と呼ばれ、健康維持に欠かせないものです。この機能が衰えると、栄養状態の悪化を招くだけでなく、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」のリスクを高め、肺炎などの病気につながることもあります。また、口周りの機能は発声にも関わるため、会話のしにくさにも影響します。
しかし、これらの機能は適切な運動で維持・改善を目指すことができます。専門的なリハビリテーションの視点からも、口や喉の機能を高めることは非常に重要とされています。そして、多くの場合、これらの運動は椅子に座ったままでも安全に行うことが可能です。
この記事では、座ったままできる、口と喉の機能をサポートする簡単運動をご紹介します。日々の生活の中で少しずつ取り入れて、食べる楽しみや人との会話を長く続けるための一助としていただければ幸いです。
運動を行う上での大切なポイントと注意点
運動を始める前に、いくつか大切な注意点をご確認ください。
- 安定した椅子に座りましょう: 背もたれのある、安定した椅子を選びましょう。足裏が床にしっかりつく高さが理想的です。
- 無理のない範囲で行いましょう: 体調の良い時に、痛みや不快感のない範囲で行ってください。もし、運動中に痛みを感じたり、気分が悪くなったりした場合は、すぐに中止してください。
- 呼吸を止めずに行いましょう: 運動中は自然な呼吸を心がけ、息を止めないように注意してください。
- 水分補給を忘れずに: 運動の前後、そして必要に応じて運動中にも水分補給をしましょう。喉が潤っている方が運動を行いやすい場合もあります。
- 食後すぐは避けましょう: 食後すぐの運動は避け、食休みをしてから行うことをおすすめします。
座ってできる!口と喉の簡単運動
これからご紹介する運動は、それぞれ口や喉の様々な部分に働きかけます。一つずつ丁寧に行ってみましょう。
1. 舌の運動で食べ物を動かす力を高める
舌は、食べ物を口の中でまとめたり、喉へ送り込んだりするために非常に重要な役割を果たします。舌の筋肉を鍛えることは、食べこぼしや口の中に食べ物が残るのを防ぐことにもつながります。
運動方法:
- 舌の突き出し: 口を軽く開け、「あー」と言う時のように喉の奥が見えるくらい開きます。舌をまっすぐ前に突き出し、5秒キープします。ゆっくり元に戻します。これを5回繰り返します。
- 舌の上下運動: 口を軽く開け、舌の先を上の前歯の裏に当て、次に下の前歯の裏に当てます。これを1回として、ゆっくり10回繰り返します。できる方は、舌の先を鼻の先へ向かって伸ばすイメージで上へ、次に顎の先へ向かって伸ばすイメージで下へ、大きく動かしてみましょう。
- 舌の左右運動: 口を軽く開け、舌の先を右の口角へ向け、次に左の口角へ向けます。これを1回として、ゆっくり10回繰り返します。できる方は、頬をグッと押すようなイメージで舌を横に突き出してみましょう。
- 舌回し: 口を閉じ、舌で歯茎の外側をなぞるように、右回りにゆっくり5周、左回りにゆっくり5周回します。頬が疲れるのを感じるかもしれません。
期待される効果: 舌の筋力や柔軟性の向上。食べ物をまとめる、口の中で移動させる、喉に送り込むといった嚥下の一連の動作をスムーズにすることに役立ちます。
2. 唇と頬の運動で食べこぼしを防ぐ
唇や頬の筋肉(口輪筋や頬筋など)は、食べ物が口の外にこぼれるのを防いだり、食べ物を噛む際にサポートしたりする役割があります。これらの筋肉を鍛えることで、食事中の食べこぼしを減らし、より効率的に噛むことができるようになります。
運動方法:
- すぼめる・開く: 唇をすぼめて「うー」の形を作り、5秒キープします。次に、口角を横に引いて「いー」の形を作り、5秒キープします。「うー」と「いー」をゆっくり5回繰り返します。
- 頬の膨らませ・凹ませ: 口を閉じ、片方の頬を大きく膨らませて5秒キープします。次に、もう片方の頬を膨らませます。左右交互に5回ずつ行います。慣れてきたら、両方の頬を同時に膨らませ、次に頬を吸い込むように凹ませて(タコの口のように)5秒キープします。これを5回繰り返します。
- パタカラ体操: 「パ」「タ」「カ」「ラ」という音をそれぞれ連続して発声します。「パパパパパ」「タタタタタ」「カカカカカ」「ラララララ」と、それぞれ5〜10回程度繰り返します。これらの音は、唇(パ)、舌先(タ)、舌の奥(カ)、舌(ラ)を使うため、口周り全体の筋肉をバランス良く刺激します。
期待される効果: 唇や頬の筋肉の筋力・柔軟性向上。食べこぼしの予防、咀嚼のサポート、明瞭な発声にもつながります。
3. 顎の運動で噛む力をサポート
顎の関節や周辺の筋肉の柔軟性を保つことは、しっかり食べ物を噛み砕くために重要です。大きく口を開けたり閉じたり、左右に動かしたりすることで、顎周りの機能を維持・向上させることができます。
運動方法:
- 口の開け閉め: 背筋を伸ばして座り、肩の力を抜きます。指を1〜2本縦にして口に入れられるくらいにゆっくり口を開け、数秒キープします。ゆっくりと口を閉じます。これを5回繰り返します。無理に大きく開けすぎないように注意してください。顎に痛みを感じたら中止します。
- 顎の左右運動: 軽く口を開け、顎をゆっくり右へスライドさせて数秒キープします。次に、ゆっくり左へスライドさせて数秒キープします。左右交互に5回ずつ行います。
期待される効果: 顎関節の動きをスムーズにし、咀嚼能力の維持・向上をサポートします。
4. 喉の運動で飲み込みをスムーズに
食べ物や飲み物を安全に飲み込むためには、喉仏がスムーズに上がる必要があります。喉の筋肉を意識して動かす練習は、嚥下機能の維持に役立ちます。
運動方法:
- 空嚥下(つばを飲む練習): 口の中に少し唾液を溜めるか、少量の水分を含みます。顎を軽く引き、喉仏が上がるのを意識しながら、ゴクンと唾液(または水分)を飲み込みます。これを5〜10回繰り返します。実際に食べ物や飲み物を飲む場面を想定して、しっかりと飲み込む練習です。
- ハフィング: 肺から息を強く「ハッ!」と吐き出す練習です。これは、もし気管に食べ物などが入りそうになった場合に、それを外に出す力をつける練習です。椅子に座ったまま、お腹に手を当てて、「ハッ!ハッ!」と短く、しかし力強く息を吐き出します。5〜10回程度行います。
期待される効果: 嚥下反射の活性化、喉仏の動きのスムーズさ向上、誤嚥を防ぐための咳をする力の維持・向上。
運動を継続するために
ご紹介した運動は、一度にすべて行う必要はありません。ご自身の体調や都合に合わせて、できるものから、できる回数だけ行ってみましょう。例えば、テレビを見ながら舌の運動をしたり、休憩時間にパタカラ体操をしたりと、日々の生活の中に自然に取り入れる工夫をすることで、継続しやすくなります。
これらの運動は、口や喉の機能維持に役立つことが期待されますが、すでに嚥下機能に重度の問題がある場合や、何らかの病気がある場合は、自己判断せず、必ず医師や言語聴覚士などの専門家に相談してください。専門家は、個々の状態に合わせた適切な評価やリハビリテーションプログラムを提供してくれます。
座ってできる簡単な運動でも、コツコツと続けることで、口や喉の機能の維持につながり、いつまでも美味しく食事を楽しみ、おしゃべりをする豊かな生活を送るための一助となるでしょう。焦らず、ご自身のペースで取り組んでみてください。